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2022.09.27
コロナウイルス後遺症について (杏林大学看護学科 中島 正世 准教授)

杏林大学看護学科・准教授の中島 正世先生が、COVID-19の後遺症に焦点をあてて、その対策としてニューロフィードバック(以降NFBと略)が可能かどうか、昨年~今年に文献の調査されていましたのでご参考いただければと思います。

COVID-19は、2020年3月11日にWHOがパンデミックを表明し、2年半が経過しているが、未だに感染は収束していない。さらに、COVID-19から回復した患者の87.4%が何らかの症状を有しており、具体的には倦怠感、呼吸困難、筋力低下、睡眠障害、集中力低下が多く、その他咳、嗅覚異常、味覚異常、鼻炎、頭痛などであった(Carfi et al.,2020)。また、COVID-19の後遺症は、発症早期から嗅覚・味覚障害についての研究報告がされている。たとえば、COVID-19感染者の無症状から中等症の療養・入院中の方の調査では、入院・療養中は、嗅覚・味覚障害どちらかがあった人は61%であった。治癒後、嗅覚障害と嗅覚障害に伴う味覚障害が発症から1か月後までの改善率は、嗅覚障害が60%、味覚障害が84%であり、治癒に伴い早急に消失すると述べている(三輪,2021)。

一方、イスラエルのCOVID-19の早期から嗅覚や味覚喪失があった1468人の追跡調査で、嗅覚はおよそ回復していたが、これまでと臭いが違う・不快・薬品のようだという嗅覚錯誤が増え、以前は10%であったが、半年後には約47%に認められるようになり、焦げた臭いがする幻嗅についても同様に半年後に25%も示し、幻嗅が日常生活に影響しQOLを低下させたと述べている(Kathrin et al.,2021)。

COVID-19の後遺症を訴えている人が多く、回復半年後に増加している幻嗅など嗅覚異常は、遷延的に日常生活に支障をきたし、QOLを低下させ、うつや神経症へ移行するため、嗅覚異常への対処法の究明が必要である。

COVID-19 の後遺症への研究は、海外では後遺症として回復半年後に幻嗅が増加していること、COVID-19のウイルスが神経系に影響を及ぼし、さらに、脳波で前頭葉の変化、二相性、遅いデルタ波の出現など、珍しいパターンが発生することが明らかになっている。しかし、COVID-19後遺症については、対処法が確立されていないことや、幻嗅によりQOLの低下、うつや神経症へと移行しやすい。

一方、COVID-19のSARS-CoV2ウイルスは、神経系の機能に異常をひき起こし、脳症、意識と集中力の障害、味覚と匂いを感知する能力の低下などの神経学的症状を誘発する可能性があると示されている(Li et al.,2020; Baig, 2020)。

NFBは、ADHDやうつ、頭痛、睡眠障害などの臨床症状の治療とパフォーマンスの向上のために適用されている。NFBは薬物療法のような副作用がなく、脳の神経調節システムにおける正しい調節機能を確保し、全体的な神経生理学的変化を促進し、根本的な調節不全から生じる最適なパフォーマンスに対する向上に適用されている(Kopańska, 2021)。

また、COVID-19の脳波に関する基礎研究では、COVID-19患者の脳波検査で、前頭葉の変化、わずかな非対称、単形成、二相性、遅いデルタ波の出現など、珍しいパターンが発生したと報告されている(Antony et al.,2020; Vespignani et al.,2020)。つまり、COVID-19の後遺症は脳波パターンへの影響があるため、NFBの効果が期待される。そこで、

2022年のCOVID-19研究報告では、以下2件の実証研究を紹介する。

Orendáčová M.et all(2022)はCOVID-19後の神経学的合併症に対するNFBの効果をみるために、10名の参加者に5回のNFBを実施し、一か月異常持続する不安とうつ病の重症度が大幅に軽減されたことや、不安・疲労、うつ病の重症度、およびうつ病と疲労と軽減は、互いに正の相関があったと報告している。

次に、Kopańska M.et all(2022)は、COVID-19の感染後のパンデミック時のパニック発作患者におけるEEGバイオフィードバックの脳波モデルの開発のために、42名にQEEGでのNFBを実施した。その結果、δ波(C3およびC4)、θ波(C4)、SMR波(C3)の振幅は、治療前よりも治療後、および6か月後を比較すると有意に治療後に減少し、6カ月維持された。次に、β1波およびβ2波は(C3およびC4)の振幅は治療前よりも治療後に低下し、6か月後維持したと報告している。一方、α波(C4)とSMR波(C4)の振幅は、治療前よりも治療後、追跡6カ月後に有意に増加したと述べている。さらに、NFBは、患者がパンデミック前の精神状態に戻るよう潜在的に影響し、完全な精神機能への復帰にプラスの効果をもたらし、認知機能と実行機能が改善され、不安、パニック、恐怖が軽減されると述べている。

 

したがって、研究結果は少ないが、COVID-19の後遺症には、NFBが脳波パターンを改善

し、症状も改善することが実証された。今後、COVID-19の後遺症対策の治療法としてNFBが適応され、一般化されることを望みます。

 

1)Carfi A.,et al.JAMA.2020 Jul 09.[Equb ahead of print]

2) 三輪高喜(2021)新型コロナウイルス感染症による嗅覚、味覚障害の機序と疫学,厚生労働科学特別研究事業(最終報告). file:///C:/Users/masayo/Dropbox/%E7%A7%91%E7%A0%94/000798853%20%E5%BE%8C%E9%81%BA%E7%97%87%E3%80%80%E5%8E%9A%E7%94%9F%E7%9C%81%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF.pdf

3)Kathrin O.,et al.(2021).Increasing incidence of parsosmia and phantosmia in patients recovering from COVID-19 smell loss.

4)Li,Z et al.,(2020). Neurological manifestations of patients with COVID-19: Potential routes of SARS-CoV-2 neuroinvasion from the periphery to the brain. Front. Med. 14, 533–541.

5)Baig,A.M.(2020).Neurological manifestations in COVID-19 caused by SARS-CoV-2. CNS Neurosci. Ther. 26, 499–501.

6)Kopańska M(2021). Changes in EEG Recordings in COVID-19 Patients as a Basis for MoreAccurate QEEG Diagnostics and EEG Neurofeedback Therapy: A Systematic Review. J Clin Med. 10(6).

7) Antony A.R., et. Al.,(2020). Systematic review of EEG findings in 617 patients diagnosed with COVID-19. Seizure. 234- 241.

8)Vespignani H., et al.,(2020).Report on Electroencephalographic Findings in Critically Ill Patients with COVID-19. Ann. Neurol. 88:626–630.

9)Orendáčová M・Kvašňák E・Vránová J(2022)Effect of neurofeedback therapy on neurological post-COVID-19 complications (A pilot study).PloS one [PLoS One] 2022 Jul 27; Vol. 17 (7)

10)Kopańska M・Ochojska D・Mytych W・Lis MW・Banaś-Ząbczyk A(2022).Development of a brain wave model based on the quantitative analysis of EEG and EEG biofeedback therapy in patients with panic attacks during the COVID-19 pandemic. Scientific reports [Sci Rep] Sep 01; Vol. 12 (1).

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